石牟礼道子

三十八年暮、桑原史成の水俣病写真展を展いてくれるよう、わたくしは橋本彦七市長に申し込む。  — あんた何者かね?  — はあ、あの、シュフ、主婦です。あの、水俣病を書きよります。まあだほんのすこし。豚も養いよりますけん、時間がなくて。家の事情もいろいろ・・・・・・。  — ふむ、キミ荒木精之を知っとるかね。  — 知ってます。  — いや、荒木君はキミを知っとるかネ。  — ご存知です。  — つまりキミは荒木氏からみれば、熊本では何番目の文士かね?  — さあ? はあ、文士だなんて、ぜんぜん、その・・・・・・。 そしてあっさり断られる。荒木精之とは熊本文壇の族長的な存在である。